大阪高等裁判所 昭和36年(ネ)159号 判決 1962年10月26日
控訴人 原告 株式会社 山本工務店
訴訟代理人 寺崎文二
被控訴人 被告 大阪府知事
訴訟代理人 水野佑一 外四名
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人が昭和三三年七月二八日控訴人の従業員山本勇、山本竜、山本真嵯子、大西清、山本儀三、今城誉富、山本章、木下清、岡安造、松中清、松中芳三、脇田広志、青山利行、厚清詞に対する健康保険、厚生年金保険の被保険者資格取得の日を昭和三三年五月一日となした確認処分は無効であることを確認する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は主文同旨の判決を求めた。
当事者双方主張の事実関係は左に記載するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。
一、控訴人の主張
(一) 保険者が健康保険、厚生年金保険の被保険者の資格取得の日を事業主の届出での日より遡つて確認することが許されないことは、次の理由からしても明らかなところである。
(1) 健康保険法第二一条の二第二項、厚生年金保険法第三一条第一項は、いずれも被保険者又は被保険者たりし者は何時たりとも被保検者の資格の取得の確認を請求することができる旨規定している。「何時たりとも」とは右確認の請求は請求者の意思にかかつていることを明らかにしたものであつて、請求者の任意であるとの趣旨である。事業主の届出では被保険者の請求の代行にほかならない。したがつて、保険者は被保険者に加入を強制しうべきものではない。健康保険、厚生年金保険を強制保険と解することは甚だしい曲解である。
(2) 保険は将来生ずべき不慮の災害に備えてなすものであり確認の請求は被保険者としての具体的な法律上の効果の発生を求める意思表示である。ゆえに、確認の請求は将来に向かつて効果の発生を求めるものであつて過去における事故について給付を求めるものではない。保険者のなす確認は被保険者の資格の存否を確認するに過ぎず、資格取得の日時を確認するものではない。
(3) 被保険者の資格取得の請求や、事業主による被保険者の資格取得届けには、その健康診断書、給料その他の資料の提出が求められており、これ等の資料はいずれも右請求あるいは届出でのときを基準として作成せられている。もし被保険者の資格取得の日を届出での日より遡つた日に確認することが許されるとすれば、その間に被保険者の給料その他の資料に変化を生じている場合には、不当な結果を生ずる。控訴人の本件事業所においては、届出当時である昭和三三年七月一九日には被保険者は一四名であり、収入平均月額は金一八、〇〇〇円であつたが、確認当時の同年五月一日には被保険者は一三名、収入平均月額金一六、〇〇〇円であつた。
(4) 本件確認により福島社会保険出張所歳入徴収官水沢基の発した保険料納入告知書を見るに昭和三三年五―七月分相当健康保険料厚生年金保険料と記載してある。右「相当」の文字は、遡つて確認してもその期間については、保険料としてはこれを徴収できないことを明白に物語るものである。
(5) 健康保険法第一三条所定の事業所に使用せられていても、被保険者の資格の取得の確認があるまでは事実上保険給付を求めることができないのであるから、確認の日を遡らせてその間の保険料を徴収することは許されない。それは保険料が保険給付に対して有する対価的性質に反するものであつて違法である。このことは、同法第一二条の三が、「第一二条の規定に依り保険給付を受けざる者に対しては保険料は之を徴収せず」と規定している注意に徴して明らかである。
(6) 保険者の確認処分は被保険者に保険料を負担する義務を形成し、反面保険給付を受くる法律上の効果を設定するものであるから、その性質は債権的形成的行政行為であるというべく、形成の効果を過去に遡らしめることは特別の規定なくしてなし得ない。健康保険法、厚生年金保険法にはかような形成の効果を認めた規定はない。
(二) 本件確認処分は確認当時の控訴人の事業所の実態について何等調査をしないでなした違法があるから無効である。かりに、実態調査をしたとしても事実と相違している。すなわち、被控訴人は確認当時の控訴人方従業員は一四名、平均給与は金一八、〇〇〇円と認定しているが、事実は従業員が一三名、平均給与は金一六、〇〇〇円であつた。このような事実を誤認した本件確認処分は無効である。これは、被控訴人が確認をするにあたり、その事務官和気豊茂が昭和三三年五月一日当時の実態について何等の調査をすることなく、控訴人が届出時現在で作成して提出した資料をそのまま同年五月一日当時の実態であるとして引用作成した復命書の記載を採用したことによるものである。
二、被控訴人の主張
(1) 前記控訴人主張の(一)、(3) について、
事業主からの届出でに健康診断書の添付を求める取扱いのなされていることは控訴人主張のとおりであるが、これはすでに疾病にかかつている者がその治療のための保険給付を受けることを目的として真実の雇傭関係がないにも拘らずこれがあるかのように装つて不正の保険給付を受けようとする事態を防止するための行政措置としてなされているものに過ぎない。その内容によつて保険関係の存否が判断されるものではない。また届出で又は請求に給料その他の資料を添付すべきことも控訴人主張のとおりであるが、これ等の資料は、健康保険法施行規則第一〇条、厚生年金法施行規則第四条、第七条、第一五条に規定されているように、本来被保険者の資格取得時のそれを申告すべきものであり、且つその内容も、申告の内容によつてのみ確定するわけではなく、場合により保険者の職権調査によつて確定することも許されているのである。そのことによつて、正当な保険料の徴収が不可能になるものではない。
(2) 同(一)、(4) について
控訴人主張の納入告知書は一見してこれを理解することができるように、昭和三三年度厚生保険特別会計に属する健康保険料五〇、一一五円と厚生年金保険料一九、六二〇円の納入告知書である。これに納付目的昭和三三年五-七月相当分健康保険料、厚生年金保険料と記載してあり、「相当」の文字が加えてあるのは、通常の場合は定期に保険料の調定がなされるのに対し、本件の場合は定期外(随時)の調定によつて資格取得の時期が遡及されたための取扱いにすぎない。
(3) 同(二)について、
右は控訴審第四回口頭弁論期日においてはじめて提出された攻撃方法であつて、時機に遅れ、これがため訴訟の完結を遅延せしむべきものと認められるから却下さるべきである。仮りに、そうでないとしても、控訴人の主張事実はいずれも行政処分の重大且つ明白なるかしにはあたらないから、主張自体失当である。なお、附言するに、被控訴人は控訴人が昭和三三年七月一九日付で提出した被保険者資格取得届けに基づき本件従業員が同年五月一日に被保険者資格を取得したことを確認したのであるが、その際福島社会保険出張所長直属の社会保険調査員和気豊茂において同年七月二五日に控訴人方に出張した上、控訴人の賃金台帳、源泉徴収簿、労働者名簿等の経理関係帳簿類を同年五月当時から調査し、併せて控訴人の財産状態、取引銀行についても調査しその結果を右出張所長宛の調査復命書にまとめ、これに基づき被控訴人が前記確認処分を行なつたものである。その手続は当時為されていた通常の調査方法によつたもので、何ら間然するところはない。
三、控訴代理人は甲第一号証の一ないし五、同第二号証の一ないし三、同第三号証の一、二、同第四号証を提出し、被控訴代理人は甲号各証の成立を認めた。
理由
一、控訴人が昭和三三年一月二一日設立された土木建築事業を目的とする株式会社であり、常時五人以上の従業員を使用する事業所を設け右事業を営んでいるものであること、控訴人主張の本件従業員山本勇外一三名は昭和三三年五月一日以来右事業所に使用せられていること、控訴人は同年七月一九日右従業員一四名につき、健康保険法第八条、厚生年金保険法第二七条による被保険者資格取得の届出でを被控訴人になしたこと、被控訴人は同年七月二八日、右従業員一四名が昭和三三年五月一日に被保険者資格を取得した旨の確認処分をなし、同年八月一八日控訴人にその旨通知したことは、いずれも当事者間に争いがない。
二、まず、控訴人は「健康保険、厚生年金保険において保険者あるいは都道府県知事が被保険者の資格取得の日を確認するには、事業主の届出での日を基準とすべきであり、右日時より遡及した日時によることは許されない。それゆえ、本件確認処分は無効である。」と主張する。
しかしながら、健康保険法第二一条の二第一項、厚生年金保険法第一八条第一項の規定による被保険者資格取得確認処分の性質は、右各保険のいわゆる強制適用事業所に使用せられる者と政府との間に、被用のときから成立している抽象的保険関係に関し、公の権威をもつてその存在と態様を具体的に確定するところの判断の表示たる確認行為である。したがつて、右確認処分においては被保険者資格取得の日時は、右抽象的保険関係成立の日時、すなわち、被保険者が被用せられた日時をもつてなすべきはもとより当然であり、これを事業主の届出で日時によるべきものではないと解するのが相当である。この点に関し控訴人はこれと異なる見解のもとにるる主張するところがあるので以下に説明を加える。
そもそも健康保険、厚生年金保険はいずれも労働者の保護あるいは救済という社会的見地から保険技術を採用した制度として生誕し、その後社会の変遷に伴つて、社会保険、社会保障すなわち、社会法の一環としての役割を果たしているものである。現行健康保険法は、保険者が被保険者の業務外の事由(業務上の災害に対しては労働者災害補償保険法に基いて行なわれる)による疾病、負傷もしくは死亡または分娩に関し保険給付をなし併せてその被扶養者の疾病、負傷、死亡または分娩に関し保険給付をなすことを目的とし、現行厚生年金保険法は、労働者の老齢、廃疾、死亡又は脱退について保険給付を行ない、労働者およびその遺族の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とする。いずれも法所定の事業所(健康保険法第一三条、厚生年金保険法六条)いわゆる強制適用事業所に使用される者は、被保険者の意思にかかわりなく、その事業所に使用されるに至つた日にその被保険者資格を取得する(健康保険法第一七条、厚生年金保険法第一三条)建て前がとられている。そして事業主に対しては、従業員が適用事業所に使用せられるに至つた日から五日以内にその旨を保険者に届け出るべきことが命ぜられており、右届出でを怠つた事業主に対しては刑事上の処罰を課す旨規定されている。(健康保険法第八七条第一号、第八条、同法施行規則第一〇条一項、厚生年金保険法第一〇二条一号、第二七条、同法施行規則第一五条一項)。また、保険料その他法所定の徴収金の滞納につき、延滞金の加算、滞納処分あるいは刑事上の制裁等による強制徴収の手段が認められている(健康保険法第一一条、同法の二、第八七条四号、厚生年金保険法第八六条、第八七条、第一〇二条三号)。これらの各規定は健康保険、厚生年金保険が強制加入保険であることを示すものである。
ところが、健康保険法第二一条の二第一項本文、厚生年金保険法第一八条一項本文は、いずれも、被保険者の資格の取得は保険者あるいは都道府県知事の確認によつてその効力を生ずる旨規定している。そこで、強制適用事業所に使用せられた者は使用せられるに至つた日から被保険者の資格を取得するのであるが、その効力の発生、たとえば、保険料の支払い、保険給付等の具体的権利義務の発生は確認処分の日から生ずることになる。かように、法が、資格取得の事実が存するにかかわらず、その効力の発生を確認にかからしめたのは、資格の取得の事実は、保険料の支払い、保険給付等の要否の基準となるものであるから、これを公権的な手続きによつて確定するまでは効力を生じないことにし、確認により法律関係の明確化をはからんとしたのである。それゆえ、確認処分があるまでは、抽象的保険関係があるにとどまり具体的な保険料の支払い、保険給付などの関係で、いまだ資格の取得なきものとして取り扱われるほかはないのであるが、一度確認処分がなされると抽象的保険関係は顕在化し、確認されたところに従つて具体的保険関係が生じ、この関係ではあたかも効力が遡るがごとき観を呈する場合が生ずることになる。しかし、これは本件確認処分が形成処分でありその形成力の作用ではなく、法律が確認処分に認めた効力にほかならない。
控訴人は健康保険法第二一条の二第二項あるいは厚生年金保険法第三一条第一項の「被保険者または被保険者たりし者は何時たりとも云々]の規定を根拠に、被保険者の確認請求については期限を定めた規定なく、被保険者は全く任意にこれをなしうるのであり、事業主の届出では被保険者の確認請求の代行事務に過ぎないからその届出でも任意であるとか、被保険者資格取得の確認はその資格の存否を確認するのみで、資格取得の時期まで確認するものではないとかその他るる主張するけれども、要するにいずれも健康保険法、厚生年金法が私保険の如く保険技術をとり入れてはいるが、労働者保護という社会政策的見地から制定せられた社会法たる性格ならびに前記法の目的を正解しないことに基づく独自の見解である。もし、控訴人主張の如く確認処分の性質を保険関係そのものの成立を形成する形成処分であつて、被保険者たる資格取得を事業主の届出での日時を基準とすべきものと解するならば、事業主の怠慢により被保険者資格取得の届出でをなさずあるいは遅延することによつて、保険者の確認がなされず、または遅延し、その間の保険事故に対して被保険者ら受給権利者が保険給付を受けえない結果をもたらすことになる。右控訴人の論旨は健康保険、厚生年金保険の立法精神を没却し、被保険者の権利を阻害するものであることは明らかであつて、その不当なることを言をまたない。
また控訴人は、事業主は届出での際、そのとき現在における従業員に関する実態の資料を添付して届け出るのに、資格取得の日を遡つて確認することができると解するならば、その遡及期間内に事情の変更を生じている場合に、事実と一致しない資料を認定の基礎とすることになり不当である旨主張するけれども、かような事情の変更を生じている場合においては、事業主はその間の事情をも明らかにする資料を報告すべく、事業主がその措置に出でたかいなかを問わず保険者は資格取得時における事実に基づいて確認すべきことになんらの差異を生ずるものではない。
また控訴人は、事業主の届出日より遡つて資格取得の日を確認するときは、既に経過した期間については、被保険者は事実上被保険者としての取扱いを受けられなかつた結果、その間に生じた保険事故につき現物給付が受け得られないから不能を内容とする処分であつて当然無効である。しかも保険給付が受けられないのに後日これらの者に保険料の支払いのみはこれを求め得る結果となり不合理であると主張する。しかしながら確認前に被保険者としての現物給付を受けることができなかつたのは、事業主の届出で、あるいは被保険者の請求の遅延に基因するものというべく、かように遅延して確認を求めた以上、その間現物給付を受け得られなかつたとしても、それはけだしやむをえない当然の結果というのほかなく、このことのゆえに、資格取得の日を右届出であるいは請求の日にすべしとの主張は法の性格を無視した本末てん倒の論である。なお、健康保険法第四四条は、右確認を経た被保険者の確認後に生じた同条所定の場合について規定したものであるが、資格取得の日から確認処分がなされた日までの間に同条所定の事実の存する場合には、右法条を類推適用して、既に被保険者が支出した費用について療養の給付に代え、療養費の支給を受け得ると解すべきである。したがつて、控訴人主張のように、遡及期間内の保険事故に対する保険給付が不能であるということはないし、一方的に保険料の支払い義務のみ負担するという不合理な結果も生じない。
次に、控訴人は、控訴人に対しなされた昭和三三年五ないし七月分の本件健康保険料、厚生年金保険料の納入告知書に「相当」の文字を附加し、右同月分相当保険料として納入を命じたのは、たとえ事業主の届出での日より遡つて資格取得の日を確認しても遡及期間については、保険料としては徴収することができないことの証左であると主張するが、右「相当」の文字が加えられているのは、通常の場合定期に保険料の調定がなされるのに対し、本件の場合は定期外の調定によつて資格取得の時期が遡及されたための取扱いにすぎないと解すべきである。成立に争いない甲第四号証の納入通知書によれば保険料は明確に記載されていることが認められる。控訴人の主張はあたらない。
また控訴人は健康保険法第一二条の三が、同法第一二条の規定により保険給付を受けざる者に対しては保険料はこれを徴収しないと規定していることを根拠に、確認処分は届出での日より遡及して資格取得の日を認定することができない旨主張する。しかし、右法条は、国に使用せらるる被保険者、地方公共団体の事務所に使用せらるる被保険者であつて、他の法律(たとえば国家公務員共済組合法、市町村職員共済組合法など)に基づく共済組合の組合員である場合においては、その被保険者に対しても健康保険法の適用はあるけれども、その共済組合法による給付の種類および程度が健康保険法のそれよりも上である限り、有利な共済組合法による給付を受けることができるわけであるから、その者に対しては社会保険の性質からして重ねて健康保険法による給付はしない結果健康保険法による保険料の徴収もしないという趣旨を規定したものである。控訴人の論旨は右法条の誤解に出でたものと認めるほかはない。
これを要するに山本勇外一三名の資格取得の日を昭和三三年五月一日とした本件確認処分はもとより正当であつてこの点に無効のかしは存しない。
三、次に、控訴人は、本件確認処分は、確認当時の控訴人の事業所の実態調査をしないでなした違法があるから無効である。かりに実態調査をしたとしても、確認当時における控訴人の事業所の従業員は一三名、平均給与は金一六、〇〇〇円であるのに、本件確認処分は従業員を一四名、平均給与を金一八、〇〇〇円と誤認している。このような事実を誤認した本件確認処分は無効であると主張する。
被控訴人は、右主張は民事訴訟法第一三九条一項に違反する旨抗弁する。控訴人の右主張は控訴審第五回(同第一、三、四回の各口頭弁論期日は延期されたから、実質的には第二回)口頭弁論期日においてはじめて陳述されたものであるところ、これを第一審以来の訴訟手続の経過を通観して判断するに、控訴人は第一審の当初から当審訴訟代理人弁護士に訴訟を委任して訴訟を遂行して来たのであり、右主張はその内容に徴し第一審の早期において容易に主張し得た筈であると考えられるから、右控訴人の攻撃方法は少なくとも重大なる過失により時機に後れて提出されたものであることは否めないところである。しかしながら、右控訴人の主張はこれについて新らたな証拠調べをすることなくして判断をなし得ると考えられるから、これがため訴訟の完結を遅延せしむべきものとは認められない。よつて控訴人の右攻撃方法の提出はこれを認容すべきである。
そこで、右控訴人の主張につき判断する。保険者の確認処分は、事業主の健康保険法第八条による報告、同法第二一条の二第二項の規定による請求により、更に職権をもつてもこれを行なうことができる。(健康保険法第二一条の二第四項厚生年金保険法第三一条)。しかして、確認処分は前記のとおり事実の確認行為であるから、確認処分の内容が事実と一致することが要請せられる。そのためには実態を知る必要があり、与えられた実態を知る資料の利用(事業主の届出で又は被保険者の請求による場合には、その提出書類や添付書類はもとより一つの資料であり、これを真実と認めて確認処分をなすことも当然許される)や積極的な実態の調査(提出書類に疑義がありそのまま容認しがたい場合や職権による確認の場合に特にその必要が生じる)なくしては、正当な確認処分を行なうことのできないことは見易い道理である。しかしながら、実態の調査は確認処分をなすに至るまでの経過ないしはその手段であつて、確認処分そのものではないのみならず、本件のごとく事業主の届出でによつて確認処分をなす場合においては、たとえ実態調査を行なわなかつたとしても、それは確認処分の違法ないし無効事由たりえないものと解するのが相当である。
又行政処分は、実体的要件についてこれをいえば、そのかしが重大且つ明白で当該処分を当然無効ならしめるものと認めるべき場合を除いては、適法に取り消されない限り、完全にその効力を有するものである。したがつて、行政処分の無効確認を求めるには、処分のいかなる点に無効事由が存するかならびにその明白性を具体的に主張しなければならないところ、右控訴人の主張には処分のいかなる点に無効事由が存するかないしその明白性の主張を欠く(控訴人の本件事業所に昭和三三年五月一日山本勇外一三名の従業員がいたことに当事者間に争いがない事実であるし、同日現在の収入平均月額が金一八、〇〇〇円でなく、金一六、〇〇〇円であることは処分に存することが認められない)。それゆえ、本件確認処分には右控訴人主張の無効のかしは存しないといわなければならない。
四、そうすると、本件確認処分について控訴人の主張する無効理由はいずれも認められないから、その無効の確認を求める本訴請求は失当として棄却すべく、これと同旨の原判決は相当である。
よつて、民訴第三八四条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 平峰隆 裁判官 大江健次郎 裁判官 北後陽三)